＃002 出会い

私の「取材の考え方」に影響を与えた出会いについて書きます。

6年前、相模原が熱くなった時がありました。
小惑星探査機「はやぶさ」のカプセル地球帰還。
多くの人々に感動を与えた小惑星探査機「はやぶさ」の物語は相模原にあるＪＡＸA相模原キャンパスから始まりました。
メディアで大々的な特集が組まれ、映画まで制作されるなど日本全体が「はやぶさ」ブームに湧いていましたが、私は地域の出来事として小惑星探査機「はやぶさ」を取材したいと思いました。

当時からＪＡＸAとは取材でのつながりがありましたが、今回だけは大手メディアに負けるだろうと取材は諦めていました。

そんな中での一本のメール。
取材許可がおりました。
時間は15分程。
インタビューの相手は「はやぶさプロジェクトマネージャー」川口淳一郎さん。
小惑星探査機はやぶさの生みの親です。（言葉的に正確に当てはまらないかもしれませんが）
私は出来るだけの宇宙の知識を詰め込み、小惑星探査機「はやぶさ」の物語を暗誦し、大手メディアでも語られない地元ならではの「はやぶさエピソード」を引き出したいと意気込みインタビューの日を迎えました。

ＪＡＸＡの研究塔の一室に案内され、しばらく待つ。
あれを聞こう、これを聞こう、と頭の中でぐるぐるシュミレーション。

そして、いざ川口さんの部屋へ。

少し薄暗い部屋。無造作におかれた沢山の書物が積まれた机のそばで、私よりも小柄な川口さんが笑顔で私を迎えてくれました。

時間もないので
「それでは、早速はやぶさの話を」と私のインタビューは始まるのですが思ったほど話が進まない。霧の中でもがいているような感覚。
なんだか息苦しくなり、私は思わず「川口さんにとってはやぶさとはなんですか」と苦し紛れの質問をしてしまいました。
しばらく沈黙。お互い視線を泳がせながら沈黙をかき消そうと。

はやぶさは過去のミッション。これからの事が大切。

川口さんがふいに言ったこの言葉。
これがこの部屋を覆っていた「違和感」でした。
どんな偉業でも「過去」で、「過去」で覆せないものであり、その過去から導き出す「未来」の大切さ。
川口さんは地元のラジオを通してそれを伝えたかったのです。
この時から話の趣旨は「はやぶさ」から、「子供達と宇宙」という未来の話に。
「ＪＡＸＡがある相模原。多くの子供たちに宇宙への興味を持ってほしい」
「はやぶさ」の偉業は「日本の宇宙開発の未来」だけではなく「子供たちに宇宙につながる無限の可能性」を知ってもらうことも出来たようです。


「過去」にこだわらず「未来」の事を。

2015年、秋。
東海大相模高校野球部の門馬監督もそうでした。

1970年以来のほぼ半世紀ぶりの夏の甲子園制覇。
あの夏の激闘を知りたく東海大相模に行きました。
しかし、監督から最初の一言は
「甲子園の優勝の時の写真や映像はまったく見ていない」
その後。
「次の試合を勝つことしか頭にない」

ほとんど夏の大会について話はなかったです。
「相模原の野球の底辺を活性化させたい」
熱く語る門馬監督。

そういえば。門馬監督とはインタビューは二回目。
2010年夏の大会準優勝の時のインタビューでは
「人の頑張りは服装にでる。高校野球のユニフォームでもそう。カッコよく着こなす。高校野球といえども見せるスポーツだから」と話していました。
「そんなこといいましたっけ？」
「はい。だから、私、今日は一番いい服を着てきました。どうですか？」
門馬監督は笑いながら
「似合ってます。似合ってますよ。」
それまでは厳しい顔で野球を語っていた門馬監督。
その笑顔は今でも覚えています。

私は「過去の事」を追いかけるように取材をしていました。
しかし、「過去の事」いつもでも浸ることなく、次のステップ、次の勝利へ。二人との取材を通して、その姿を伝えることの大切さを知りました。
次を見据えることが、全国的な、世界的な偉業を支える原動力なのかもしれません。それから、私の取材の要素の一つに「これからの事」が加わりました。

この二人を含めて私が取材を通して出会った地元ゆかりの人々。
オリンピック選手も、プロ野球選手も、自治会長も、お祭りの主催者も立場は違えども、多くの人々が同じように語る言葉があります。

「この地域を盛り上げたい」

この言葉の根底にある想いこそ「地元の財産」です。
その財産は新しい財産を育て、また次の世代につながっていく。
地域とはそうやって大きくなっていくのかもしれません。
私が取材をしてるのも「地元の財産」です。

私も財産を残せる人間に・・・
そうなるのはまだまだ頑張りが足りないようです。