文教地区・淵野辺にあるちょっと変わった食堂。入りやすそうでいて、鍵がかかっていてトビラが開かない。なぜ、こんな場所が誕生したか?「まちの不動産屋さん」2代目が、ここを舞台に巻き起こる人間模様を語る連載コラム。
ある日、こんなつぶやきを見つけました。
かわいらしく照れ笑いしている様子がひしひしと伝わってきます。
彼女はいったいどうしたというのでしょうか?
さかのぼること20数年前。言葉も文化も異なる未知の国へ一人で訪れることが好きだった大学生のボクは、訪問地で必ず「行きつけの店」をつくることにしていました。
「ある日、ふらりと訪れてきた外国人」であるボクが繰り返し訪れることによって、おぼろげな印象から徐々に「人格ある人間」としての輪郭を認識してくれるようになり、ついには「池田峰」として接してくれるように。その過程は非日常の刺激を与えてくれ、その結末はまるでそこを自分の居場所として認めてくれた証のように日常の安堵を与えてくれました。
そして今、このことが原体験となった思いがトーコーキッチンには秘められています。
それは、入居者のみなさんにとってのトーコーキッチンが単に「食事」の場としてだけではなく、ほどよいコミュニケーションでゆるやかな繋がりを感じつつ、心地よい距離感で安心して身を置くことができる「自分の居場所」のような空間になるといいな、という思いです。
それには、わたしたち自身が食堂を訪れた入居者のみなさん一人ひとりと直接顔を合わせることができて、無理のない自然な流れで、定期的にコミュニケーションを取り続けられる独自の空間をつくる必要がありました。
トーコーキッチンが掲げる理想の挨拶は「髪切った?」です。そのくらいの頻度と距離感でコミュニケーションをとりましょう、という思いからです。そう、言うならば、描いているのはどこか「家族の日常」のような風景でしょうか。
そこで、先ほどのつぶやきです。
2017年1月12日。おそらく、お正月の帰省から淵野辺に戻ったばかりであろうタイミングで食べたトーコーキッチンでの朝食のことを誰かに伝えたい願望がついに極限まで達し、そして、世の中に向けてつぶやいたのです。
それを見つけたボクは、すぐさま彼女にこう返信しました。
「キュンとなるつぶやきをありがとう! トーコーキッチンのことをそんな風に位置付けてくれてうれしいです。ご実家ではたっぷり甘えてこられたかな? トーコーキッチンは朝8時から夜8時まで年中無休でいつも変わらずに開いているから、またいつでも来てね!」
以後、ホームシックでないときにも、日常的にごはんを食べに来てくれるようになった彼女。トーコーキッチンの大切な常連さんとして、顔なじみのスタッフをどんどん増やしていってくれたのでした。
ところで、毎日150人前後の入居者のみなさんにご利用いただいているトーコーキッチン。
彼女がおいしいと褒めてくれた料理は、どのように作られているのでしょうか? やはり、便利で合理的な出来合いの食品に助けてもらっているのでしょうか?
答えは「ノー」です。
実は、そこにトーコーキッチンの料理に込めたわたしたちのこだわりがあるのです。
でも、それはまた別のお話。