農地あっせん事業は2011年、町田市が都内で初めて導入。新たな担い手の育成から活躍の場の提供まで一貫したプログラムを用意、新規就農者を生み出した。その実績が評価され、2013年には「全国農業会議所会長賞」を受賞している。
農業経営希望者に「遊休農地あっせん」遊休農地の新しい担い手が誕生
図:遊休農地あっせんの仕組み
担い手バンクの登録者は94人。うち、実際に営農している人は42人(既存農家22人、新規就農者20人)。新たに農業を始めたいと考える人は増えつつあるようだ。
「農業を始めたいと思っている人が見学に来る」と「おおるりファーム」(町田市小山町)の青木瑠璃さん。青木さんは2012年、同事業で就農した。「大変だがやりがいがあるし、ストレスもない。見学者には『やってみれば』と後押ししている」
農地バンクに登録されている遊休農地の面積は現在、15.1ヘクタール。うち14.1ヘクタールは貸し付けが済んでいる。残りの1ヘクタールは営農条件が悪く、借り手がつかないという。担い手バンク登録者に貸せる農地がない状況だ。
「2度応募してどちらも落選している」と担い手バンク登録者の早川侑さん。野菜の移動販売などの事業を起こす一方、2013年に市の農業研修を受けて就農を目指す。「候補地は上がってくるが、担い手の審査では経験や実績が優先されているようで、借りるのは難しい。借りられたとしてもシノダケ伐採に大きな費用がかかってしまう場合もある」
野菜移動販売で団地高齢者を支援
おおるりファームの青木さんが初年度に借りた農地は約280平方メートル。「ほとんど雑木林。面積も小さくて、とてもじゃないけれど、『町田に住んで農業経営』という事業要件をクリアできないと思った」と振り返る。
コツコツと開墾し、野菜の収穫にこぎつけたことが評価されてか翌年、応募者6組の中から選ばれて条件の良い約2500平方メートの農地を借りた。「それでも、20年以上も耕作されていなかった市の所有地は荒れ地と化していた。苦労して斜面地をひな壇状に整えた」
無農薬野菜の栽培には逆境が結果として良かったと明かす。「農地として長い間使われていなかったため、残留農薬が検出されず、農地の周囲は森に囲まれているので農薬のドリフト(周辺からの飛来)を防げる」
写真:おおるりファーム
市内の農地面積は約577ヘクタール。約半分が市街化調整区域にあり、耕作されていないと見受けられる農地も点在する。「遊休農地の状況は調査中で、はっきりした数字は把握できていないが、おそらく農地バンクに登録されている面積の数倍はあるのでは」と市の担当者。「農地の需要と供給のバランスをとることが課題」
遊休農地が農地バンクに登録されない状況について、小山田で代々に渡って農業を営む小川忠宏さんは「高齢の地主は農地改革で土地を失った経験があり、貸すことに抵抗がある。それが農地バンクの登録が進まない要因ではないか」と推測する。
農地あっせん事業は、従来の農地法による貸し借りと異なり、小作権や離作料が発生しないため他人に貸しても確実に戻ってくると市は説明している。農地として活用しながら、里山の原風景を守るという目的を果たすためにも、町田の地域資源である「農」を生かしたビジネスを促進する面でも、事業の内容や実態をもっと周知してはいかがだろうか。
【宮本隆介 町田経済新聞編集長】