玉川大学キャンパス(町田市玉川学園)内に最先端技術を研究する複合施設「Future Sci Tech Lab(フューチャーサイテックラボ)」が完成して2カ月以上が過ぎた。
玉川学園創立80周年を機に建設した同施設。宇宙船をイメージさせる実験棟を備えた施設の外壁にはLED(発光ダイオード)を備え、地球に飛来する宇宙線を感知して赤や青などカラフルに光る。延べ床面積は約1,670平方メートル。1階に「植物工場・宇宙農場ラボ」、2階に「超高速量子光通信研究施設」が入る。
植物工場の面積は約800平方メートル。最新型LEDランプと水冷パネルを用いて新たに開発した栽培システムを実用化し、新しい食糧生産のかたちを提案する。「リーフレタスの場合、赤色で甘みが増し、青色で渋みが出る。波長を調整できるLEDの特徴を生かして植物の薬効を高めることもできる。清廉な環境で栽培するため、無農薬で洗浄せずにそのまま食べることができる」と研究責任者の渡辺博之・農学部教授。
「世界初の栽培システムを採用した大規模植物工場。リーフレタスの生産量は現在、1日あたり300株。営業生産のスケールとなる2,000株~5,000株を目指すほか、イチゴやハーブなどの機能性野菜、形質転換作物を安定生産する実用技術を確立する」とも。
宇宙農場ラボでは作物を360度回転させることで擬似無重力状態を作り出す。「宇宙に長期滞在する場合、宇宙ステーションなどで作物を栽培することになる。植物は重力方向に根を張るが、無重力状態では根や茎は種から出た方向に伸び続ける。植物の形をどうやって保つかが課題」(渡辺教授)。
超高速量子光通信研究施設は、広田修・量子情報科学研究センター教授が中心となって研究を進める。超高速量子光通信は、次世代インターネットであるデータセンターを基盤とするクラウド・コンピューティングにとって重要な技術。現在はクラウド・コンピューティングの利用が進む一方で、盗聴用データセンターによる盗聴専門ビジネスが台頭する危険性が指摘されている。
同大学は、盗聴防止策として提案された新しい量子暗号方式(Y-00)を、通常の光通信技術で実現する方法を発明。昨年度は、日立グループの協力を得て、毎秒10ギガビットの大容量光通信に応用できる玉川大学方式量子暗号装置を開発した。「毎秒10ギガビットは国会図書館の蔵書を1秒で送信できるスピード。現在、300キロ通信を達成した」(広田教授)。
同施設では、世界最速の玉川大学方式量子暗号を改良し、500キロ通信実験を行うほか、基礎研究として、暗号に用いた秘密の鍵が盗まれても解読されない理想的な暗号システム「Hirota-09」プロトコルの実現技術の研究も予定する。
「量子暗号技術の標準化を巡って日米間で競争が繰り広げられている。今年から試験的に企業に導入し、来年には実用化を目指す」(同)という。