文教地区・淵野辺にあるちょっと変わった食堂。入りやすそうでいて、鍵がかかっていてトビラが開かない。なぜ、こんな場所が誕生したか?「まちの不動産屋さん」2代目が、ここを舞台に巻き起こる人間模様を語る連載コラム。
淵野辺で創業43年となる不動産屋の二代目、池田峰です。日本で一番「味どう?」と聞いている不動産屋です。当社、東郊住宅社が運営する入居者向け食堂「トーコーキッチン」にまつわるエトセトラをお話しさせていただきます。
ある日、こんなつぶやきを見つけました。
しみじみと思う様子がひしひしと伝わってきます。
彼はいったいどうしたというのでしょうか?
淵野辺周辺には青山学院大学、麻布大学、桜美林大学など複数の大学が存在し、多くの学生さんが一人暮らしをしていることもあり、「トーコーキッチンは若者向けですか?」「利用しているのは学生さんばかりですか?」といったご質問をいただくことがよくあります。
確かに、当社管理物件入居者の約半数が一人暮らしの学生さんになります。また、食事サービスへの需要の高まりを学生の親御さんから感じ、食堂運営を着想しました。そして、実際にトーコーキッチン利用者の多くは学生さんです。しかし、学生さんばかりではありません。
そこで、先ほどのつぶやきです。
2018年1月6日。NHKの朝のニュース番組「おはよう日本」内の特集コーナー「朝ごはんの現場」でトーコーキッチンが紹介されて1週間が経過したころのことです。TVを観た彼の心によほど強く残るものがあったのでしょう。トーコーキッチンを利用する人々から垣間見られた人生模様に感じた思いを述べたい願望がついに極限まで達し、そして、世の中に向けてつぶやいたのです。
それを見つけたボクは、すぐさま彼にこう返信しました。
「ご感想ありがとうございます。わたしたちも大変うれしく思い、トーコーキッチンを始めて本当に良かったと思わせてくださったエピソードでした!」
彼が心に留めたのは、死別により単身生活となった高齢男性がトーコーキッチンで大学生との会話を楽しみながら食事をする、というエピソードでした。
入居者のみなさんに食事を提供するサービスとしてトーコーキッチンの構想を練り始めたとき、やはりその主たる利用者として想定していたのは学生さんでした。しかし、ふと当社管理物件に既にお住まいになっているみなさんの顔を思い浮かべてみると、ここ数年、高齢の単身入居者の方が増えてきていることに気が付きました。
高齢で単身生活を送る背景はさまざまですが、近くに身寄りのない方が多いのが現実です。
そうだとすると、学生さんよりも孤食になりがちなのではないだろうか? もしかしたら、気軽に利用できる食事サービスがあったら喜んでいただけるのではないだろうか? 無理のないコミュニケーション機会として、それを楽しんでいただけるのではないだろうか?
そう思い、トーコーキッチンは実現に向けて加速していきました。
ところで、そうするとなるとトーコーキッチンは学生さん、そして、単身高齢のみなさんにだけ役立つサービスとして考えられたものなのでしょうか?
答えは「ノー」です。
実は、そこにトーコーキッチンを入居者サービスとして実現させるに至ったわたしたちの更なる思いがあるのです。
でも、それはまた別のお話。