文教地区・淵野辺にあるちょっと変わった食堂。入りやすそうでいて、鍵がかかっていてトビラが開かない。なぜ、こんな場所が誕生したか?「まちの不動産屋さん」2代目が、ここを舞台に巻き起こる人間模様を語る連載コラム。
淵野辺で創業43年となる不動産屋の二代目、池田峰です。日本で一番「味どう?」と聞いている不動産屋です。当社、東郊住宅社が運営する入居者向け食堂「トーコーキッチン」にまつわるエトセトラをお話しさせていただきます。
ある日、こんなつぶやきを見つけました。
押しつぶされそうな思いを堪えている様子がひしひしと伝わってきます。
彼女はいったいどうしたというのでしょうか?
トーコーキッチンは、東郊住宅社が淵野辺周辺で管理する1,600室の賃貸物件にお住まいのみなさんに利便性と健康的な食生活を提供するための食堂として誕生しました。あくまでも入居者サービスの一環なので、朝食100円、昼・夕食500円で提供しています。
周辺の大学生、単身高齢者、働く女性を中心に喜んでご利用いただけたらうれしいと思い、実現に至ったわけですが、実際に入居者サービスとして運用開始されたことによって初めて気が付いた、トーコーキッチンを有効活用してくれる大切な利用者の存在がありました。
そこで、先ほどのつぶやきです。
2017年1月25日。不動産ポータルサイト「SUUMO」でトーコーキッチンの取材記事が掲載されて半日が経過したころのことです。働く女性として、働く母として、日々抱える苦悩や葛藤を緩和してくれるかもしれない食堂の存在を知った彼女。それによって溢れ出した思いを吐露したい願望がついに極限まで達し、そして、世の中に向けてつぶやいたのです。
それを見つけたボクは、すぐさま彼女にこう返信しました。
……いいえ、今回は返信しませんでした。正確には、返信できませんでした。
思いの強さに胸がしめつけられ、適切な言葉が見当たらなかったのです。
彼女の心を動かしたのは、先述の記事で紹介されたある小学5年生のエピソードでした。
その小学生は夏休み期間中の昼時に週3日のペースでトーコーキッチンに一人で来店し、300円の日替わりキッズプレートを食べてくれていた、というものでした。そして、トーコーキッチンは東郊住宅社が入居者のために自社運営する食堂で、手づくりの料理を提供し、入店には入居者が持つカードキーが必要になるという点が、共働きである親御さんにとって安心してお子さんを食事させられる場所とご判断いただけたようだ、というものでした。
また、この記事掲載から数ヶ月経ったころのことです。「園児のために朝食を用意してくれないか」と、事業用物件入居者である近隣の保育園からご依頼いただきました。聞けば、朝食を摂らずに登園する園児が増えてきているのだとか。それから保育園が自園で朝食提供するための準備が整うまでの1年間、「“不動産屋”が“保育園”に“朝ごはん”を“仕出し”する」という一文が表す、どこか不思議な世界が現実のものとして繰り広げられました。
トーコーキッチンを始めたことによって初めて気が付けた、大切な利用者の存在でした。
ところで、やっぱりトーコーキッチンはみんなが楽しく集う場としてパーティやイベントが開催されたりしているのでしょうか? 貸切利用は可能なのでしょうか?
答えは「ノー」です。
実は、そこにトーコーキッチンの在り方として、わたしたちの秘めたこだわりがあるのです。
でも、それはまた別のお話。