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夢のJ1へ FC町田ゼルビア奮戦記2020
#2 ハードワーク

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ランコ・ポポヴィッチ監督は、社員をずいぶんと「こき使う」上司だ。J2の通算出場時間を見ると、今季はここまでトップ10のうち5名をFC町田ゼルビアの選手が占めている。

もちろん彼はコンディションを無視して選手を使うタイプではないし、試合ごとの入替や交代も当然している。ただし「この選手はやれる」となれば、どんどん使ってさらに伸ばそうとするのがこのセルビア人指揮官の発想だ。

町田のフィールドプレイヤーでは奥山政幸、深津康太、平戸太貴、佐野海舟、髙江麗央の5名が第27節までの全試合に先発、出場している。5人とも怪我なく、パフォーマンスを落とさずにシーズンの終盤戦を迎えようとしている。

ただボランチ(セントラルMF)は特に運動量が多い位置。そう考えると佐野、髙江のコンビの奮闘は特筆に値する。中2日、中3日と連戦が続く中でポポヴィッチ監督は彼らの起用にブレーキをかけず、二人は期待に応え続けている。

10月14日の京都サンガ戦は中2日の強行日程ながら、佐野が大活躍を見せ、髙江はスーパーゴールを決めた。試合後のポポヴィッチ監督にその起用について聞くと、彼はこう返してきた。
「若いうちに走らないで、いつ走るんですか?私はそう言いたいです。彼らのメンタルさえしっかりと整っていれば、ダブルヘッダーでも問題なく走れると思います。彼らもプレーを楽しんでほしいですし、今日のようなプレーを続けてほしい。二人ともファンタスティックなプレーでした」

19歳の佐野、22歳の髙江は回復も早いのだろう。「鉄は熱いうちに打て」の言葉通り、連戦の負荷を成長のエネルギーに変えている。

キャプテンのCB水本裕貴は二人の成長についてこう述べる。
「再開直後から二人のコンビネーション、バランスは日に日に良くなっている。頼もしい二人だし、とにかく運動量が多い。DFラインの前のスペースをしっかり消してくれているし、サイドに入ったときもカバーをしてくれる。CBとしてすごくやりやすい」

髙江は高校時代から攻撃で強みを発揮するタイプで、スルーパスやミドルシュートという武器がある。今季は既に3得点、2アシストと結果も出している。

佐野は球際の強さ、セカンドボールの回収など守備を売りにするタイプ……と思っていたら、彼も今季は攻撃面の成長が目覚ましい。

右MFの吉尾海夏は言う。
「あの二人がボールを持ったとき、前の選手は動きやすいですね。受けやすい持ち方、受け方をしてくれる。ボランチを一回経由したほうが確率も上がるので、そういう部分で助かります」

佐野の成長についてはこう述べる。
「シーズンの序盤は後ろに下げる、横に流すパスが多くて、それはずっと言っていたんです。でも(今の)海舟は特に前を強く意識してくれて、奪ったあともファーストタッチで前を向いてくれる。半身で受けて、前を向いてサイドに振ってくれるシーンが増えてきた」

後ろ向きにボールを収めた、後ろからパスが入ったときに、「ボールをコントロールしながら前を向く」プレーができると、その次の選択肢は大きく増える。

ただし、すぐ前に相手が迫っている状況で前を向いたらボールを失いかねない。反転のプレー(ターン)は、敵味方の位置を把握する判断力も必要だ。言葉にすると簡単に思えるが、Jリーグの守備を相手にこれを実践するのはかなりの高等技術が必要となる。

佐野はそのような「判断の伴ったスキル」を連戦の中で上げている。皆さんも試合を見ていただけば分かるはずだが「いいターン」「いい配球」が明らかに増えている。攻撃の選手に早いタイミングで強く正確なパスをつなぎ、時間とスペースを「プレゼント」する形が目立つ。

プロサッカー選手は試合に出るほど評価が上がり、出場給や勝利給といった形で収入も増える仕事だ。一般企業とは逆に「働けるなら、どんどん働かせる」ことが選手のためになる。佐野と髙江はポポヴィッチ監督という“優しい上司”のもとで、良いキャリアを積んでいるのではないか。

【プロフィール】
大島和人(おおしま・かずと)1976年11月生まれ。2012年から町田市某所在住。サッカーを皮切りにバスケットボールや野球の取材・執筆も行っている。

写真提供 FC町田ゼルビア

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