文教地区・淵野辺にあるちょっと変わった食堂。入りやすそうでいて、鍵がかかっていてトビラが開かない。なぜ、こんな場所が誕生したか?「まちの不動産屋さん」2代目が、ここを舞台に巻き起こる人間模様を語る連載コラム。
淵野辺で創業44年となる不動産屋の二代目、池田峰です。日本で一番「味どう?」と聞いている不動産屋です。当社、東郊住宅社が運営する入居者向け食堂「トーコーキッチン」にまつわるエトセトラをお話しさせていただきます。
2015年12月27日。わたしたち東郊住宅社が管理する1,600室の賃貸物件に入居しているみなさんのための特別な食堂として、トーコーキッチンは淵野辺にある商店街の一角でひっそりと産声をあげました。おかげさまで、まもなく5周年を迎えさせていただきます。
「入居者のみなさんに利便性と健康的な食生活を毎日提供する」ことを第一とし、入居者サービスの一環として自社で運営。朝ごはん100円、昼・夜ごはん500円で提供しています。
100円の朝の定食は「日替わり」の1種類のみですが、入居者のみなさんに毎日食べても毎食食べても飽きずにご来店いただけるようにとの思いから、500円の昼・夜の定食は1種類の「日替わり」に加え、2種類の「週替わり」をご用意し、計3種類の提供となっています。
500円の日替わり定食は、1ヶ月のうちで同じメニューが重複することがないように工夫をして構成しています。そのため、オープン以降レシピは増え続け、今や100を超えました。
でも一方で、没メニューもたくさんあります。以下は、ほんのその一例です。
■アルコール 各500円
「食堂で偶然居合わせた入居者さんとオーナーさんがお酒を酌み交わす」なんていう、ほのぼのした光景を思い浮かべながら設定したメニューでした。用意したアルコールは生ビール、焼酎、そして、ソムリエでもあるシェフが厳選して取り揃えたワイン。「きっとみんなよろこんでくれるはず」。気軽に楽しんでいただけるよう、お値打ち価格にしました。
……しかし、現実はというと、びっくりするほど注文が入らないという事態に遭遇。それはもう、樽生ビールの賞味期限が切れてしまうほどでした。「そうですよね、トーコーキッチンにお酒は似合わないですよね」と判断し、オープンからわずか3ヶ月でアルコールの提供終了を決定しました。
■マンガ肉 500円
マンガで見たあの骨付き肉を丁寧に再現させたメニューでした。見た目・味ともに満足のいく仕上がりとなったとき、厨房から自然と沸き上がった歓声は今でも耳に残っています。「きっとみんなおもしろがってくれるはず」。そんな確信に近い思いすらありました。
……しかし、現実はというと、「マンガ肉って何ですか~?」と度々質問される事態に遭遇。「ごめんなさい、ジェネレーションギャップでした」と判断し、没メニューとなりました。
■夜ごはん 700円
実はオープン当初のトーコーキッチンの夜ごはんは700円でした。500円で提供する昼ごはんの内容(主菜1品・副菜2品・ごはん・豚汁)にもう1品が加わった豪華版でした。
「こんな充実した定食が700円で食べられるなんて!」と大変ご好評いただいていましたが、あるとき気が付いたのです。700円の夜ごはんを食べに来てくれる学生さんの数が、500円の昼ごはんを食べに来てくれる学生さんの数よりも圧倒的に少ないことに。
そこで、700円の夜ごはんを10人の学生さんに食べに来てもらって得られる7,000円よりも、500円の夜ごはんを14人の学生さんに食べに来てもらって得られる7,000円の方がトーコーキッチンにとって正しいと判断し、夜ごはんも500円で提供することにしました。