文教地区・淵野辺にあるちょっと変わった食堂。入りやすそうでいて、鍵がかかっていてトビラが開かない。なぜ、こんな場所が誕生したか?「まちの不動産屋さん」2代目が、ここを舞台に巻き起こる人間模様を語る連載コラム。
#017「淵野辺なら橋本まで9分、ちょっと考えてみようかな。」
淵野辺で創業43年となる不動産屋の二代目、池田峰です。日本で一番「味どう?」と聞いている不動産屋です。当社、東郊住宅社が運営する入居者向け食堂「トーコーキッチン」にまつわるエトセトラをお話しさせていただきます。
ある日、こんなつぶやきを見つけました。
思いを改め直している様子がひしひしと伝わってきます。
彼女はいったいどうしたというのでしょうか?
トーコーキッチンはJR横浜線・淵野辺駅徒歩2分の商店街の一角に位置し、東郊住宅社が淵野辺駅周辺で管理する1,600室の賃貸物件にお住まいのみなさんに、利便性と健康的な食生活を提供するための食堂です。入居者サービスの一環として自社で運営しているため、朝食100円、昼・夕食500円で提供しています。
トーコーキッチンが存在するのは、淵野辺にあるその1店舗だけ。そのため、淵野辺に住んでいただくことが、トーコーキッチンを最も便利に活用していただけることになります。
そこで、先ほどのつぶやきです。
2016年5月10日。不動産ポータルサイト「LIFULL HOME'S」でトーコーキッチンの取材記事が掲載された翌日のことです。おそらく、淵野辺駅から3駅離れた橋本駅での賃貸生活を検討中だった彼女。電車で10分足らずの淵野辺にある「東郊住宅社の管理物件に住むと特別な食堂を使える」ことを知り、自身の部屋探しを再考したい願望がついに極限まで達し、そして、世の中に向けてつぶやいたのです。
それを見つけたボクは、すぐさま彼女にこう返信しました。
「淵野辺でお待ちしてます!」
淵野辺駅の一日の乗降客数は8万人弱。1908年の駅開設とともに駅前の市街化が始まり、都市部へのベッドタウンとして発展しました。淵野辺周辺には大学など学校が多いこともあり、JR横浜線の快速通過駅としては一日の乗降客数が最も多い駅となります。
しかし、快速停車駅の方がやはり人気あり、他路線への乗換可能な駅の方が当然便利です。
彼女がつぶやいていた橋本も沿線で人気がある駅の一つです。淵野辺から八王子方面へ向かって3つ先の駅となり、京王線とJR相模線の2路線への乗換が可能です。また、反対方向、淵野辺から横浜方面へ向かって2つ先の駅には町田があり、小田急線への乗換が可能です。京王線も小田急線も新宿へと続き、通勤・通学に便利な路線です。橋本にも町田にも多くの巨大商業施設が建ち並び、日々の生活もやっぱり便利です。
そのため、淵野辺は「うん、ここ住みたい!」と思って積極的に選ばれるというよりは、むしろ学校や職場に近いことを理由に「う~ん、ここに住むか」と消極的に選ばれがちです。
しかし、彼女はトーコーキッチンに魅力を感じ、淵野辺での生活を視野に入れ始めたのです。
橋本より、淵野辺。
私鉄乗換も便利な快速停車駅より、JR横浜線の各駅停車しか止まらない快速通過駅。
建ち並ぶ巨大商業施設より、たった一つの小さな入居者向け食堂。
消極的に選ばれてばかりだった淵野辺が、積極的に選ばれるようになったのです。
ところで、トーコーキッチンがある淵野辺はよく知られたまちなのでしょうか? やっぱり、住みたいまちランキングにも登場するような人気の駅なのでしょうか?
答えは「ノー」です。
実は、そこにトーコーキッチンが誕生したことによって生まれた更なる変化があるのです。
でも、それはまた別のお話。