文教地区・淵野辺にあるちょっと変わった食堂。入りやすそうでいて、鍵がかかっていてトビラが開かない。なぜ、こんな場所が誕生したか?「まちの不動産屋さん」2代目が、ここを舞台に巻き起こる人間模様を語る連載コラム。
淵野辺で創業45年となる不動産屋の二代目、池田峰です。日本で一番「味どう?」と聞いている不動産屋です。当社、東郊住宅社が運営する入居者向け食堂「トーコーキッチン」にまつわるエトセトラをお話しさせていただきます。
ある日、こんなつぶやきを見つけました。
残念がっている様子がひしひしと伝わってきます。
彼女はいったいどうしたというのでしょうか?
トーコーキッチンの朝食は100円です。前回も記しましたが、100円朝食は赤字価格です。トーコーキッチンの説明をする際に「100円の朝食は出れば出るほど赤字です」と言うと、みなさんもれなく笑ってくださる鉄板ネタとなっているくらい、オフィシャルな赤字です。
父である先代の社長は「不動産業はホテルのようなサービス業」だとよく言っていました。ボクも同感です。しかし、不動産屋はそこに住む人の暮らしをより楽しくすることに携われる稀有な職業でもあるので、それに加えて「エンタメ業」でもあるべきだと思っています。
そこで、先ほどのつぶやきです。
2019年2月6日。ビジネスニュースサイト「BUSINESS INSIDER JAPAN」にインタビュー記事が掲載された日のことです。ちょうど引越し先を決めたばかりだったのでしょうか? もしかしたら希望エリアは淵野辺近辺だったのでしょうか? 記事を見てトーコーキッチンの存在を初めて知った彼女。今さらながらに知ってしまった口惜しさを伝えたい願望がついに極限まで達し、そして、世の中に向けてつぶやいたのです。
それを見つけたボクは、すぐさま彼女にこう返信しました。
「遅くなってごめんなさい。次回ぜひ!」
広告費をかけてトーコーキッチンを宣伝していないことも手伝い、みなさんへお知らせが行き届いておらず、トーコーキッチンの存在はまだまだ知られていません。本来なら広告費にかけるだろう費用を食材に充て、おいしい手づくり料理の提供に注力しているからです。
そのため、今回の彼女のような「引越し先を決定する前に知りたかった」という声や、過去の入居者から「もうちょっと早く始めて欲しかった」という声をいただくことがあります。ほんの数年前、トーコーキッチンを運営開始する前までは聴こえてこなかった声です。
ベッドタウンとして発展してきた淵野辺。どの世代にとっても生活しやすいまちですが、住まうまちとして、羨ましがられたり、憧れられたりするかというと……、残念ながらそういう感じではありません。むしろ、学校や職場が近いため消極的に選ばれる傾向が強いです。
ところが、トーコーキッチンという空間の存在を知ったことにより、それがある淵野辺での生活を羨んでくれたのです。たった一つの小さな食堂の存在によって、住みたいまちランキングに縁遠い、この名もなき小さなまちでの暮らしを羨んでもらえるようになったのです。
ところで、入居者のみなさんはトーコーキッチンが毎日SNSで投稿している料理写真を見て、その日のメニューを確認しているだけなのでしょうか?
答えは「ノー」です。
実は、そこにわたしたちの想像を超えたSNSの有効活用法があったのです。
でも、それはまた別のお話。