地域密着の番組をつくる。
相模原市・町田市に何のゆかりもない私の番組作りはその「理念」からスタートしました。
地域を見ていくためのフィルターはいくつもあります。
文化、歴史、行政、行事など。もっとくだけてみれば音楽や買い物、ひょっとしたら都市伝説や心霊スポットにもそういう「地域フィルター要素」があるかもしれませんね。
様々な角度から地域を見ていくために、それらのフィルター要素を組み合わせて色々なコーナーを番組内につくりました。
「スポーツ」
これもまた地域を見ていくために大きくわかりやすい要素です。
十数年前、私が番組をつくり始めたときに、すでに「スポーツ」を扱う番組はありました。
ただ、その「スポーツ」はスポーツ新聞の抜粋であったり、全国的知名度が高いチームの情報だったり。
私がつくりたいのは「スポーツ番組」ではなく「地域密着の番組」。
知名度は低くても、例え弱くても、地域に根付いたスポーツがいい。
「ゼルビアというチームがあるらしい」
インターネットで「相模原 スポーツ」で検索をしたら出てきた「ゼルビア」という言葉。この言葉だけではなんのチームかすらわかりません。
「関東リーグに所属するサッカーチーム」
いかにも手作りな「ゼルビア」ホームページをスクロールして少しため息。
サッカー。
私はどちらかと言えば野球少年で、サッカーの知識は漫画で読む程度。
他に目ぼしいチームがないので、とりあえず「ゼルビア」というチームにアポイントをとりました。
「小山のグラウンドに来てほしい」
ゼルビアの広報からメールをもらい、ある夏の夜、小山公園のグラウンドへ。
やってるやってる
若い選手が多いんだな。
2時間くらいベンチでぼーっと練習を見て
練習終わりで選手に声をかける。
「取材に来たのですが」
「え?取材??」
あれ。反応がおかしい。
「ゼルビアの選手ですよね?」
「ゼルビア?違います。○○○大学です」
え・・・。大学・・・??
ここ、小山だよね?
もはやパニックです。
右往左往。あたふたです。
その姿を見た大学の関係者の方が少し笑いながら
「ゼルビアなら町田の小山だね」
私はこの時はじめて相模原にも町田にも「小山」という地名があることを知りました。
なんともややこしいこの地名の謎を理解するのは少々時間がかかり、番組が始まったばかりの時は「地名」の取り違えは多々ありました。
相模原にある「谷口(やぐち)小学校」を「たにぐち小学校」と読み、しかも、「谷口小学校」と「谷口台小学校」を間違える。
そんな地名の間違えはしょっちゅうでしたね。
でも、取材に年季が入ってくると、なぜそういう似た名前が多いのか歴史とか文化とか理由が薄ぼんやりとわかってきて、そういう間違えも減ってきます。
閑話休題。
結局、地図を書いてもらい「相模原市小山」から「町田市小山」へ。
真っ暗な境川沿いを迷いながら歩く。
すでに約束の時間は過ぎています。
よく考えれば、この時はまだ相模原に来て1年も経たない時。初めて能動的に町田市に来たのもこの時。この時より前に「知らないうちに町田市」はあったかも知れませんが、なんせまだ地名すらあやふやな時期だったので。
遠くからサッカーボールを蹴る音がする。
やっと着いた小山グラウンドは。
地面は砂利が露になって白く。
照明が弱いために半分が闇に。
練習中の選手達はボールに合わせて石を蹴りながら、闇から闇へ。
闇から出てこない選手もいる。
あ。草むらに入ったボールを探しているのか。
仕事やバイト終わりでくる人もいるようでぞろぞろとプレハブのような着替え場所に入っていく。
なんか
思っていたのと違う・・・
社会人サッカーの練習場所ってこんなんなのかな?
さっきの大学生の練習場所の方が数段いいぞ。
「なんでうちのチームに?」
当時は監督だった守屋さんが私の顔を覗きこむ。地元スポーツチームの紹介コーナーをつくりたくて、と私が言うと分厚い紙の束が出てきた。
「FC町田ゼルビアの行動理念」と黒々と太い文字がある。そして、その下には赤い文字が踊るようにこうある。
「地域とともに育つ 地域を育てるチームに」
まさに私が求めていたスポーツチームの理想がそこにはありました。
それから。
さがみ月光団はFC町田ゼルビアの情報を毎回扱うようになりました。
そして。
私はFC町田ゼルビアを通して町田を知るようになりました。
関東リーグからJFL へ
JFL からJ2
カテゴリーが変わり
練習場所も
府中だったり
夜の相原中央公園だったり
選手から町田を教えてもらったり
相模原を選手に教えたり
さがみ月光団はゼルビアとともに、
片想いですがね、ここまで歩いてきました。
あの暗闇の小山グラウンドを知る選手はもういません。
私の目の前にいるのはまばゆいばかりの照明の下、何千人もの声援の渦の中にいる選手達。
でも、「地域のために」 「町田のために」。小山グラウンドから続く血脈は受け継がれています。
今、番組ではゼルビア以外の地元のチーム情報も放送しています。
少年野球の子供たちやオリンピック代表選手、プロレスラーも登場します。
ゼルビアがいなかったら
もしかしたら番組でスポーツ枠がなかったかもしれません。
地元のスポーツチームは「強ければいい」ではありません。
「地域とともに育つ 地域を育てる」
そして、地域に愛される。
地域に愛されるチームでないといけないのです
ゼルビアはそれを教えてくれました。
スポーツが町の色を作る。
町田駅前のブルーフラッグを見てください。
一喜一憂しながら、スタジアムからの人の流れができる。
スポーツが「娯楽」という一つのカテゴリーを飛び出し
「町づくり」の大きな要因を握っています。
「さがみ月光団はスポーツ番組ですね」
そう言われることがあります。
答えは「ノー」です。
あの時あの暗闇の中で渡されたゼルビアの言葉
「地域とともに育つ 地域を育てる」
それを目指していく番組です。