◇FC町田セルビア(ホームタウン:東京都町田市)
市立小学校の教諭が指導する少年サッカー選抜チーム「FC町田」(1977年設立)のトップチームとして1989年に創設された「FC町田トップ」が前身。1997年に現在のチーム名になる。2012年、チーム設立23年目にJ2リーグ参戦を果たした。
◇SC相模原(ホームタウン:神奈川県相模原市)
静岡県出身の元サッカー日本代表、望月重良さんが中心となり2008年に創設。県3部リーグからスタートし、JFL昇格まで全カテゴリーで優勝。チーム設立7年目の昨年、J3リーグに参戦。
◇公式戦での対戦成績
2013年JFL 町田1勝、相模原1勝
2014年J3 町田3勝、相模原0勝
▽サッカーJFL、町田が相模原に勝利-全国リーグで初の公式対決
FC町田ゼルビアで子どもたちにサッカーを教えている酒井良さんは相模原市出身。湘南ベルマーレやモンテディオ山形などでプレーし、2006年、関東リーグ2部だったFC町田ゼルビアに加入。Jリーグを目指していたチームをプレーと精神面で支えた「ミスターゼルビア」だ。
「小学生の頃、相模原のサッカーは町田にはとても敵わない。憧れだった。相模原市内の優秀な選手が集まるトレセンに参加していたが、よりレベルの高い環境でサッカーをしたいと思い、中学に上がるときに同級生の戸田和幸(元日本代表、J2ゼルビアに在籍)らと町田のチーム(小山FC)に入った」と振り返る。
選抜チーム「FC町田」には市内外から優秀な選手が集まり、しのぎを削っていた。全国大会で好成績を残し、「少年サッカーの盛んな地域」として清水市とともに認知され、林健太郎、藤吉信次、丸山良明など数多くのJリーガーが育っていった。
「地元の選手の受け皿としてトップチームのFC町田ゼルビアがある。目先の勝負ではなく、選手を育成して将来、半分くらいがゼルビアのスタメンに名を連ねる。そこで勝ったら何十倍の価値がある。地域の人の力になる」と力を込める。
一昨年のJFL最終戦で町田が相模原に負けた時は「悔しくて眠れなかった」という酒井さん。「プライドを懸けて戦う。SC相模原には負けたくない」
相模原も近年、ユース育成に力を入れている。「相模原にも素質のある選手はたくさんいるが、J1のユースチームか高校サッカーに行ってしまう。トップチームが強くて魅力的になれば、ユースにも選手が集まる」と話すのが、1年前に立ち上がったばかりのSC相模原U-18で監督を務める山口貴之さん。
町田市出身。成瀬サッカークラブから読売クラブのユースを経て、ヴェルディ川崎、コリチーバ(ブラジル)などでプレー。ユース各年代で日本代表に選ばれている。2008年シーズンにゼルビアのキャプテンとしてJFL昇格に貢献。後半44分に同点弾をアシストした全国地域リーグ決勝の矢崎バレンテ戦をゼルビアの「最高の試合」に挙げるファンも多い。
▽「後半44分からの逆転劇」-FC町田ゼルビア、地域リーグ最終ラウンド進出
「私の役割はトップチームにユースの選手を送り込むこと。地元出身の選手がトップチームで活躍するようになれば、相模原と町田の戦いは自然な形で盛り上がるだろう」と展望しつつ、「選手は各地から集まっているので、町田と相模原という地域間の対決にこだわりはない。どこにいってもサッカーはサッカー。ダービーを盛り上げるのはサポーター」と言い切る。
相武決戦を観戦するために今シーズン初めて、ユースチームの週末の予定を入れなかったという。「ゼルビアは優勝を争うチームだが、昔一緒に戦っていた仲間もいる。ライバルというよりは頑張ってほしいというのが正直な気持ち」と地元にエールを送る。「今年の相模原は選手の質が高い。FW高原直泰にボールを集められれば、いいリズムで戦えるだろう。そして勝ったほうが優勝争いで一歩抜きん出ることができる」。
ゼルビアのサポーターグループ「LOS CUMBANCHEROS」代表の工藤賢一さんは、相模原に負けた「2013武相決戦」でコールリーダーだった。「めちゃくちゃ悔しかった。シーズン最後の試合だったので監督・選手らに文句を言うこともできなかった。あんな思いは二度としたくない」
「相模原はJを目指してできた『ぽっと出』のクラブ。敵対心はないが俺たちは相模原の上にいなければならない」と自負する一方で、「JFL時代には讃岐や松本、金沢に対して、町田は負けていなかった。相模原が町田よりも上のカテゴリーに行くことがあれば、自分たちは『このままでいいのか?』と考えるだろう。5年後10年後にその状況が生まれるかもしれない」と打ち明ける。
「私はかつて相模原に住んでいた。町田サポーターには今も相模原市民がいる。町田がJリーグを目指すと宣言した時、住んでいる街は関係なく、俺たちが押し上げるんだという気持ちでまとまった」と振り返る。「相模原との対戦は特別。順位ではなく3試合全て勝つことが大事」
「2013武相決戦」で工藤さんと対峙したコールリーダーが、SC相模原サポーターチーム「GATE12」代表の東山修司さん。「相模原のライバルはY.S.C.C横浜だったが、あの試合に勝ってから町田との試合が自分の中で特別になった」と明かす。
「町田は相模原ではなく東京ヴェルディや横河武蔵野をライバル視していただろう。町田を先輩だと思っているので『ぽっと出』と相模原を上から目線で見るのは気にならない」と理解を示す。
「相模原と町田は生活圏が一緒で、緑と青、カラーは真逆だが近すぎるクラブ。無理に対立をあおる必要はない。身近にあるフットボールの雰囲気をスタジアムで感じてもらいたい。そして緑に肩入れしてほしい」と笑顔を見せた。
取材を進めているさなか、来年のローカルダービー命名権を懸けて、今シーズン3試合を戦うことが両チームから発表された。「対戦当初、『境川ダービー』という案もあったが、両チームとも川の向こう側にもスポンサーやサポーターがいる」とゼルビア広報担当の近藤安弘さんの言葉が今はしっくりくる。
サッカーの根っこにある地域性は近い。将来、クラブのユース選手がそれぞれのトップチームで活躍するようになった時、大きなうねりとなって両市のプライドを懸けた「祭り」になるのだろう。