町田と相模原のおいしいものを紹介したい!農家応援団を自任する増田久美子さんが農家を訪ね、今、畑にあるものを料理する。
前回に続き、町田市内で新規就農した農家です。小野路町の「あした農場」に、渡辺恒雄さん・康子さんを訪ねました。小野路神社の奥の細い農道を抜けると、急に視界が開け、なんと入り口では羊と馬が迎えてくれます。ここが東京であることを一瞬忘れるような風景です。
「せっかく農家になったので、家では飼えない動物もいいかなあと思いましたが、えさや世話は大変ですよ。稲わら中心にやっていますが、羊のために米を作っているんじゃないかってくらい(笑)でも畑に来てくれた人たちや、イベントに羊を連れて行くとこどもが喜んでくれますから」
-------ご出身はどちらですか?
「茨城です。農家出身ではありません。サラリーマンとして出版社や広告代理店系のWEB制作会社に勤めた後、フリーでWEBの仕事を結構長くやっていました。農業を始めてそろそろ10年になります」
-------フリーで食べていけるだけの実力があったのに、なぜその仕事をやめて、町田で有機農業を?
「WEBの仕事は、技術の進歩は速いし、若い人がどんどん入って来る業界ですから、60歳までやっているイメージが持てなくて、この先どうしようかなと思いながら仕事をしていました。それに嘘にならないギリギリまで物を良く見せる、広告という仕事にもちょっと嫌気がさしてきてたんですよね(笑)。それなら自分が心から良いと思えるものを自分で作ってやろうって。食べることが好きだし、食に関することがいいかなと。そして百姓で教育者、思想家でもある筧さん(茨城県石岡市の筧次郎さん)に出会って、たくさんのことを教わりました。筧さんの教える農業は、いわゆる有機農業、なんですが、本質的な部分は地域内のエネルギー循環にあり、「自立した社会を作ろう」という言葉でその大切さを伝えてきました。大量生産・大量消費中心の社会のありかたに漠然と感じていた疑問に対する答えが見つかったような気がして、だから僕も筧さんの教えにならい、有機農業で行こうと」
-------農家になることについて、康子さんの反応はどうだったんですか?
「康子と出会ったときは研修を始める直前でした。実は農家になろうと思っているんだ、結婚したら一緒に農業をやってほしいんだけど、というと「あ、いいんじゃない?」という軽い反応で。でもあとから、すぐ始めるとは思っていなかった、もっと歳を取ってから趣味の家庭菜園をちょっと大掛かりにやるくらいのイメージだったと言われました。彼女のいいところは、いつも明るく細かいことを気にしないところです(笑)」
-------そこまでは茨城でのことですね。
「研修を終え借りた畑に種をまいて、春を待つ間に東日本大震災が起こりました。茨城は福島のすぐ南です。茨城のほうれん草から放射能が検出され、未曽有の状況の中でどうすべきか全くわからないながら、仲間と共同で測定器を買って実態を把握したり、勉強会を開いたりと模索を続けました。長い葛藤の末、最終的に茨城を離れることにし、いくつか見に行ったうちの1つが町田でした」
-------よく町田に来てくださいました。
「町田市の農業振興課を訪ねたところ、休耕地を就農したい人に貸し出す農地バンクというマッチング制度がはじまりました。僕は町田ではなく茨城で研修を受けたので、本来なら借りる資格がなかったんですが、東京都農業会議の審査を受け、なんとか斡旋を受けることができました。畑といっても借りたときには篠竹と木と雑草が生い茂る、ほとんど荒れ地の状態から、業者の力も借りて開墾しました。町田に来てもう7年になりました」
-------あした農場というネーミング、人を呼び込むイベント開催や、羊たちや馬の存在、あした農場には、外からきた人を歓迎して受け入れてくれる明るさがあります。
「うちのイベントをきっかけに、食のこと、生き物のこと、環境のことなどにもっと多くの人が関心をもってくれたら嬉しいと思っています」
-------ところで今、畑でどんな野菜を作っていらっしゃいますか?
「僕らはできるだけ在来種を選ぶようにしています。長い年月をかけて選ばれてきた在来種は味の良いものが多いし、その種を継いできた文化やストーリーも含めて、在来種の魅力なんですよ。康子の提案でイタリア野菜も作っています。カーボロネロというイタリアの黒キャベツやケールが、今いいかんじに育ってきたところです。まだ一般的じゃないので、初めて見る人にはなかなか手に取ってもらえないのがちょっと残念です。ほかに寒さ暑さに強い品種も取り混ぜて、年間を通して畑の野菜を切らさないように工夫しています」
11月から4月ごろまでが収穫期のカーボロネロ。イタリア原産のカーボロ=キャベツ、ネッロ=黒、という名前の通り黒いキャベツです。日本の一般的なキャベツと異なって結球せず、縮れた葉っぱが上向きに生えています。葉に厚みがあり繊維が固いため、生で食べるより煮込みに向きます。ありあわせの野菜や白いんげん豆の煮込みにパンを入れたイタリア・トスカーナ地方の家庭料理、リボリータを作りました。リ=再び、ボリータ=煮る、ということで、味のなじんだ2日目がおいしいです。レシピの分量も2人分よりたっぷりしていますので、翌日もぜひ。
用意するもの カーボロネロ3枚、白いんげん豆やヒヨコ豆などの水煮100g、にんにく2片、じゃがいも1個、人参1/2本、たまねぎ1/2個、セロリ1/2本、水300㏄、塩小さじ1、パンまたは焼き麩適宜、オリーブオイル、粉チーズ、黒胡椒適宜
① にんにくは包丁の腹でたたいてつぶす
② カーボロネロは2~3cmのざく切り、ほかの野菜はすべて1㎝くらいの角切りに。
③ 鍋にオリーブオイル、にんにくを入れて熱し、香りが立ったら中火と弱火の間くらいで②の野菜をいためる。全体的にくったりしてきたら、水、豆、塩を入れて蓋をする。沸騰したら弱火にし、30分ほど煮込む。
④ すべての材料が柔らかくなったら、味見をして塩で整え、パンを入れ、パンが柔らかくなれば火を止める。
⑤ オリーブオイルと粉チーズ、挽きたての黒胡椒をかけて食べる。