「マスクを付けたパーティション越しの声が聞き取りにくい」、接客窓口での苦労を解決しようと町田のベンチャー企業「ファーフィールドサウンド」(町田市玉川学園1)は昨年、パーティション取付型双方向会話アシストシステム「kicoeri(キコエリ)」を発売した。
パーティションをはさんで親機と子機をマグネットで取り付ける同製品。仕組みはシンプルだが、ハウリングを起こさずに実用レベル化するため、同社が自動車向けに開発した「近接型双方向エコーキャンセラー技術」を応用し、自動音量調節機能を搭載した。
「新型コロナウイルスの蔓延で、スーパーのレジや病院の受付など様々な場所で感染防止のビニールシートやアクリル板が人々を仕切り、マスクを着用して会話をすることが当たり前の光景になった。ただ、安全と引き換えにお互いの声が『聞き取りづらい』というストレスが日常的に増えた。走行中の自動車の中で聞き取りづらい前席と後席の会話を聞こえやすくする我々の技術で世の中の役に立てるのではないかと開発に踏み切った」(同社スタッフの河村さん)
同社の調査研究によると約9割がマスク・パーティション越しの会話を「聞き取りづらい」と回答。マスク・パーティションによる音の減衰は、低音50パーセント、高音75パーセントに及んだ。
この、「日常会話で内容を正確に理解できないことがしばしばある状態」(語音弁別能検査で明瞭度56パーセント)でキコエリを使用すると「普通の会話がほとんど理解可能なレベル」(同明瞭度73パーセント)に引き上げることができたという。
製品化には苦労もあった。「いくつかの会社に協業を呼びかけたが、無名の小企業からの提案でもあり、また、商品が市場に受け入れられるかどうかわからないリスクがあるため、どこからもいい返事はいただけなかった」
「コロナはまさに現在進行形中の課題。のんびりと仲間探しをしている時間はないので、結局は、『経験がなくても、限られた資金、人的リソースで、短期間で製品開発・製造・販売を立ちあげる』というリスクを伴う決断をした」
昨年3月に開発着手し、同8月に発売にこぎつけた。町田市のトライアル発注認定商品に選ばれ、12月には町田市役所の一部の市民対応窓口にも導入。大手スーパー、商業施設、病院、クリニック、薬局、老人介護施設、役所、学校など累積販売数は2000台を超えたという。
「手応えを感じる一方、この商品を世の中に知っていただくこと、必要とするお客様とつながることは大変苦労したし、今でも苦労している」と河村さん。現在、商品を無料で商品を貸し出すトライアルキャンペーンを実施している。
サイズは、親機・子機ともに幅120ミリ×高さ80ミリx奥行30ミリ。電源はUSBによるDC5V給電。付属ACアダプタやモバイルバッテリーから給電して使用する。価格は4万6,200円。