FC町田ゼルビアは11月に入って1勝1分け5敗と、少し苦しい戦いを強いられている。ただしそのような戦いの中でも、クラブのこれまでの積み上げを証明し、今後への希望となる「光」があった。それは橋村龍ジョセフの台頭だ。
橋村は2000年8月生まれの20歳で、小学生時代からゼルビアのアカデミーでプレーしていた生え抜き。2017年3月のファジアーノ岡山戦では、現役高校生ながらJ2デビューも飾った俊足アタッカーだ。サポーターからは「ジョセ」の愛称で親しまれている。
しかしJリーグデビュー後の2年間は「怪我との戦い」に苦しんだ。2018年、19年の彼はリーグ戦のピッチに一度も立てていない。ジョセはこう振り返る。
「発症してから、休んだりやったりを繰り返していました。半年休んで復帰したけれど良くない、けどやって…と痛みを抱えながらやっていました」
腰の症状は難しく、手術の実行にリスクを懸念していた関係者もいたという。しかし改善しない症状を見てチームと橋村は今年2月20日、腰椎椎間板ヘルニアの手術へ踏み切る。結果は大成功だった。
「単純に痛みがないのでストレスもないですし、身体のキレが上がったと思います」
ジョセの爽やかなルックスに変化は感じないが、昇格直後に比べて明らかに体格がたくましくなった。3年前に比べて身長は2センチ、体重が8キロ増えているという。
すべて途中交代だが、11月は7試合中5試合に出場している。ジョセは自身のプレーをこう振り返る。
「最初に出ていた頃は『思い切ってやる』ことをまず考えました。でもどんどん求められることが変わっていきます。思い切りやることを止めてはいけないけれど、でも長く出たときはより考えることが多くなる。守備面ではサイドで2対1を作られないようにしてほしいとか、戦術的・全体的なことも求められる。でも前から行くこと、球際で強く行くことも求められる」
プロは攻めるだけでなく、守備にも労力を割かなければいけない。そしてサッカーには慎重さと大胆さの両面が必要だ。そんな「プロの要求」に、ジョセは答え続ける必要がある。
ただし青年は課題を感じつつ、一方で手応えや自負を持っている。
「やれると思います。自分の武器は途中から入って生きます。裏に抜けたあとや、ボールを持ったら仕掛けるところを見せたい」
チャンスで打ち切れなかった松本山雅FC戦(11月15日)の直後には、16歳年長の深津康太からこんな声をかけられた。
「『練習でああいう形になったら、自分で行くようにしろ』と言われました。練習でやっていることが、試合でそのままできるわけではない。でも練習でやっていかなければ、やれるようにはならない。明確に自分でやっていくことが見えました」
高2からトップへ合流し、既にプロ4年目とも言える彼だが、今季は初めての戸惑いを経験している。
「後輩がいるのは何か不自然というか……。周りから『お前のほうが先輩って、違和感があるな』みたいに言われました(笑)」
今季は晴山岬が新人選手として加入し、期限付き移籍で高卒1年目のノリエガ・エリックもシーズン半ばに加わった。ジョセにはとって彼らが昇格後初めて誕生した「後輩」となる。
ジョセの2年先輩で現在は拓殖大でプレーする青木義孝も、既に2021年のゼルビア加入が内定している。昇格に加えて彼の同期・佐野海舟のように新卒でこのクラブの門を叩く若者も増えていくだろう。
今季の川崎フロンターレがJ1制覇を決め、川崎U-18出身の三笘薫(岡田優希の1年後輩)が有力なMVP候補となっている。町田もそんな「先輩クラブ」のように、これからアカデミー出身者は少しずつ増えていくはずだ。
写真提供 FC町田ゼルビア